それ、犯罪じゃない?
 明らかに人を馬鹿にする胡乱気な目をした相棒が指を指す方を自分でも見遣って、言葉を返せない状況に思いっきり溜息を洩らした。
 俺の傍にはぞろぞろと集まってくる在来達から身を隠すように顔だけを出している子供が居る。
 橙色の上着の裾を掴んだ子供は、俺の腰位の身長、サラサラの黒髪に透き通った白い肌、細っこい首、ひょろっとした手足、生意気そうな黒い眼が妙に色っぽいくせに子供っぽい丸みを持った輪郭が人形みたいに見えた。
 詰め襟を片手で抑え、もう一方の手で俺の上着を握りしめている姿は痛々しく映る。
「…まさかと思うけど、誘拐とかしてないよね?」
「誘拐じゃねぇぇええ!!!」
 つい叫んで反論してしまえば、俺の後ろに隠れた子供も周りで固唾を飲んでいた同僚達もビクリと体を震わせていた。う…何でそんな責める感じの目で見るんだよ、お前ら!
「お、俺が見つけた時にはこうだったんだよ」
「見つけたって……」
 いつも冷静な我らがリーダーが眼鏡を指の背で押し上げながら一歩前へ出て子供の顔を覗きこむ。その逆光みたいな眼鏡が怖いとは言えない。
「…君の?」
 腕を組んだ宇都宮の視線が子供の着ている橙色を睨んでいて、声も妙に重いのが俺にも判った。あの埼京も脅えて後ずさって…ぁ、山手の内回りが何か言おうとしてるのを八高が止めた。お前、空気読めるんだな!
 正しく誰もの謎になっている子供は、俺と同じ制服の上着から節の無い素足を晒し、余りまくっている袖を肘の辺りに何重にも捲っている状態だ。彼シャツってやつもビックリな子供らしからぬ露出は、連れて歩いたら捕まるレベルだろう。ってか、こんな格好させた時点で捕まる気がする。法令違反。ダメぜったい!
「…もしかして、ジュニア?」
 オーダーメイドの制服を着ている上官たちと違って、俺達に支給されている制服は一般的なサイズに倣ったものだ。東で橙色の制服を着ている俺と宇都宮とジュニアの三人は皆、同じサイズの制服を着ているから内側のタグの所に名前を書いてたりする。
 もしかして、と言いながら俺の方を見上げてきた京浜東北の視線に気圧されるように俺は口角を歪に持ち上げて苦笑して見せた。
「ジュニアの制服。ついでにズボンとか靴とかは紙袋に入れてある」
 下着もだけど、とは言わない。たぶん通じてるし。
 俺が子供を見つけた時、子供の周りには服やら靴やらが散乱している状態だったと暗に語った言葉をちゃんと理解してくれた同僚は、明らかに表情を曇らせて額を抑える。京葉と武蔵野が紙袋に興味を示しているのが何か悪い予感いっぱいでさり気無く紙袋を遠退かせておいた。
 子供が不思議そうに目をまん丸にさせて俺を見上げている。
「…あの、ジュニアとは何方の事でしょうか?」
「えーと…」
 どう説明すべきだろうかと悩んで、表情だけは笑っている相棒へ助けを求めた視線を投げかけた。相棒は何食わぬ体で目線を子供に合わせる為に腰を屈める。
「東海道本線。ジュニアは愛称」
「…東海道?本線?…ジュニア?」
 子供の前にしゃがみ込んだ儘の京浜東北が頤に片手を添え、悩むように小さく唸った。それとは逆に、顎を片手で支えながら妙に自信を持った視線を子供へ投げる宇都宮が緩く小首を傾げる。わざとらしい子どもめいた仕草が、少しも好印象を抱かせないのだから不思議だ。
 まるで何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる口端が、薄ら弧を描いて持ち上がる。



「…たぶん君の事だよ、官設道サマ」


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