犯罪じゃないです、ってか隠し子でもないです!
可哀想なものを見るような生温かい目線を掻い潜り、どうにか在来の詰め所まで戻ってきた俺を嘲笑って、にっこりと笑った宇都宮が俺の肩に手を置いた。
「お疲れ様、お父さん」
「違ぇし!」
お前がそのネタを引っ張り出すな。
既に始業時間をとっくに過ぎている為、机に向かって書類と顔を合わせている山手と、書類を透かして眺めている武蔵野しか居ない場所へ溜息を洩らした。っつうか武蔵野、お前また止まっ…?
真っ白な紙を裏返しにしたり、斜めから覗きこんでみたりしている武蔵野に胡乱気な視線を送っていると、その紙越しに目があったのが判った。にんまり、と唇が弧を描いている。
「おかえりー」
「た、ただいま?」
戻りました、と律儀に頭を下げる子供に「偉いねぇ」と笑いかけてる宇都宮の目が笑ってねぇのがとりあえず恐い。お前、本気でその顔止めろ。
ヒラヒラと紙切れを揺らしながら近寄ってくる同僚の片手には、見慣れた駅ナカの紙袋があった。
「とりあえず服、テキトーに買っといた」
「ぁ、下着も入ってるよ」
爽やかに付け足す相棒の顔は見ないようにして掲げられた紙袋を受け取り、子供を連れて詰め所の一角に衝立で区切られた休憩コーナーへ移動する。ぞろぞろと呼んでも居ない見物人も一緒に付いてきやがったけど。ってか山手もかよ!
気にしたら負け。俺の睡眠時間が削れていくだけ。
とりあえず今の格好の子供を連れて歩くのは勘弁だから、服を用意してくれた事には感謝しながら紙袋の中身を確認した。
「……おい」
「高崎はどれが似合うと思う?」
子供が小さな手でもって紙袋から取り出したのは、某魔法の国でウサギを追っかけてる水色のエプロンドレスだった。
そして「どれが」と笑う相棒が翳す紙袋の中からは某電気街でティッシュ配りながら呼び込みしてる黒のゴスロリドレス。極端過ぎるだろう二択へ頭を僅かに揺らせば、人形が紙袋を抱えて登場した。至近距離で見ると怖い。
「こっちは京浜東北からだぞ☆」
選択肢の3つ目に興味津津で覗きこんでくる同僚たちを視界から排除して受け取った紙袋の中身を子供の前で取り出す。あの真面目な京浜東北なら、コイツらみたいにふざけたりはしないだろうし良かった。ひらひらのスカート穿かせて歩いたなんてジュニアに知れたら、俺が怒られる。
「抜かりないよね、あのムッツリメガネ!」
俺も怒りたい。
某見た目は子供、頭脳は大人な名探偵セット。メガネ付き。生足短パンに白ソックス、赤い蝶ネクタイにジャストサイズなスーツ。一番マトモに見えて、一番重症臭ぇっつうの!信越が喜びそうじゃねぇか!…ぁ、とりあえずコイツと信越は会わせねぇようにしないと。ジュニアが羞恥で死ぬ気がする。たぶん。
もう何てコメントすべきかも判んねぇから、子供に選択権を委ねた。
明らかに可笑しな3着の服を目の前に広げられて、悩むように表情が曇る。まぁ気持ちは分からないでもないけど。
「…洋装、ですか」
あ、全然違う感想ですね!…そういやガキの頃って制服以外は長着とかのが普通だったもんな…あの時代のドレスってコルセットだの何だので面倒臭そうだったし、ワンピース程度じゃ女物って認識じゃねぇのかも?
ヒラヒラのスカートを摘まみあげて困惑している子供に「コレとか似合うんじゃね?」とか「あ、写真撮らなきゃ」とか「高く売れそうだね!」とか勝手な事を言い過ぎな大人たちをどう止めようか考えるのも面倒で、頭を掻く。
「とりあえず、部屋に帰るまでの格好だからよ?」
「たかさきはどれが良いと思いますか?」
ちょこん、と首を傾げて俺を見上げる子供の純粋な目から逃げて、本当にデジカメを用意している相棒の手からデジカメを奪った。嗚呼くそ俺にそういう趣味はねぇんだよ!堂々と小遣い稼ぎとか言うんじゃねぇ!
たかさき、と幼さの残る言葉遣いで呼ばれてチラ、と見る。
「お前が気に入ったやつ…」
「でも、たかさきに選んで貰えると嬉しいんです」
「…さっすが」
だからその皮肉っぽい声を止めろって。
明らかに子供とは思えない確りとした言葉で、ついでにテレビで人気なキッズモデルとやらも真っ青の笑顔。はにかむような、花の綻ぶような?…正直、子供が得意って訳でない俺でも可愛いとかうっかり思っちまうような!笑顔付きに、宇都宮が顔を逸らした。さすが天下の官鉄さまーとか、お前捻くれんじゃねぇよ。
「うわーかーわーいー」
「高崎ってば、犯罪だぞ☆」
テンション低く歓声あげんな!犯罪言うな!
頭痛もキツイし、しょうがねぇから一番マシそうな京浜東北からの服を引っ掴んで子供に渡す。
「じゃあコレ!ホラ、お前らはさっさと仕事に戻れ!俺は眠ぃの!さっさと帰りてぇんだよ!」
通常運行中だと言う武蔵野が一通り笑ってあっさり踵を返し、「着替え手伝うかい?」と言う宇都宮に丁重にお断り願い、無害そうで確りと隠し撮りしようとしていた山手を追いだす。
「だって写真撮っておいてって頼まれたんだもん!」
こんな面白そうな時ぐらい、仲間に入れてくれたってイイだろう?
悲痛に叫ぶな人形。妙に精巧に表情を作る内回りへ子供が興味持っちまってるじゃねぇか!これ以上、俺の睡眠時間を削んじゃねぇよ…明日は普通に出勤なんだから、今日は休ませろよ。
たかさき、と小さく呼ばれた。
「…どうした?」
「ボタン、苦手で…手伝って貰っても良いですか?」