コレコレが前振り。やっと本題!



「ぁ、CM観たぜー」
 クリスマスに始まり年末年始、スキーシーズンと目白押しの冬に突入する足並みを揃える為に本州の高速鉄道が集まった会議室に表れた同僚の顔を見て最初に浮かんだ言葉をそのままに掛けた。続けて挨拶をする。
「珍しく早いな、山陽」
 資料の分厚い束を片手に眉を顰めた直通相手が座るのを眺めながら、珍しくは余計だと小さく呟いてみる。聞こえても聞こえてなくてもスルーされるのは経験済みだ。
 時計をチラと一瞥すれば、会議の開始まで20分前と言ったところか。相変わらず真面目だねぇと心の中でだけ感心してみる。勿論、俺も不真面目じゃないからね?誰に言うでもない言葉で一つの間を取って、テーブルに肘を付いて頬杖に落ち着いた。
「昼飯こっちで食べるように移動したからね。西の報告書整理もジュニアのおかげで早く終わっちゃったし」
「…本線に甘えるな」
 手伝って貰ったとかじゃなく、ジュニアが提出してくれたものが既に綺麗にまとまっていた、って意味の言葉はすんなり伝わったらしい。身に覚えのある言葉にハハハと乾いた笑いで視線を逸らしつつ、そう言えばと言葉を重ねた。
 書類から視線を逸らさない男をじっと見つめる。
「東海のCM、観たぜ。ずっと同じパターンなのに人気があるよなぁ」
「そうらしいな」
 気のない言葉。
「アレに出た女の子って『売れる』ってジンクスあるらしいぞ」
 ほぉ、と軽い声は「だから何だ」と言わんばかりで溜息が洩れた。自社CMなのにその程度の関心しか持たないってどれだけだよ、と憐みさえ覚える。もしかして見てもいないんじゃないかって気さえして口を開いたタイミングで、東の高速鉄道が揃ってやってきた。ノックをしないのはお相子だ。
「あれ山陽、早いね?」
 片手に茶請けを持参した秋田が会議室の傍らに置かれたポットへと向かい、低く通る声で挨拶をした山形が東海道の隣りへ座った。それに隠れていた長野が頭を下げて丁寧な挨拶をすれば、テーブルを回って俺の方にも挨拶に来てくれる。
 それに返して見遣れば、続くと思った顔が無かった。アレ?と首を傾げて探すように首を伸ばしていると、人数分のお茶を用意してくれた秋田が椅子に腰を下ろしながら嗚呼、気付いたように笑う。
「上越を捕まえに行ってるだけだから、スグ来るよ」
 場所は判るし、と紙袋から焼き芋を取り出して半分に割った。湯気が立つそれの誘惑に負けて尋ねると新たに新聞紙で包まれたそれが紙袋から現れる。
「寒いとついつい美味しく見えるんだよねぇ」
 長野と一緒に半分ずつ頬張り、同意しながら流れた話題を思い出した。
「そうそう、寒いと言えば冬のCM!観た?」
「東海のCMなら観たよ、やってたね」
「僕も観ました!すごく人気でした」
 だよな、そういう反応が普通だよ。会話を盛り上げようとする気持ちってものが東海道には無さ過ぎるんだよ。九州もだけど、二人して俺の話を聞くつもりが無いだろ?咽喉で堰き止めて叫ぶ。
 とりあえず話題に乗ってくる気なぞ微塵もない東海道は見ない方向で、俺は話題を内容へ流した。あの歌が耳に残るとか、今年のは恋人が一組だけじゃないとか、これから人気が出るだろう主演の女優だとか。
「そういえばジュニアが出てたように見えたけど」
 普通のトーンで出てきた言葉に「それ!」と俺は思わず立ち上がりそうになる勢いで秋田に続いた。若干引いた表情をした同僚が美人な顔を僅かに後退させた。さすがの俺もその反応はちょっとショックだ。
 けれど俺の勘違いじゃないのだと裏付けしてくれる証言に緩む表情はしょうがない。開き直るように背筋を伸ばす。
「あの真っ直ぐ立った背中とか、振り向く時の少しだけ伺うような雰囲気とかさー絶対ジュニアだと思うんだよ!…だけどジュニアは違うって言うし」
「…違うんですか?」
 やっぱり長野もジュニアだと思っていたらしい。そうだよね、だって俺が見間違える訳が無いでしょ。
 今回の東海のCMも、いつもと同じで東海道新幹線の車体と主演女優以外にはわざとフォーカスを当てないように作られていて音声もない。バックに流れているのは有名な歌で、発車のアナウンスも入っていない。代わりに一昔前の発車ベルが挿入されていた。
 遠距離の恋人がクリスマスを共に過ごす為に新幹線に乗ってやって来る。
 変わらぬコンセプトだが、今回はフォーカスの当っている女優以外にもホーム上では数組のカップルが久しぶりの逢瀬をしている表現がされていた。
 その中で一人、恋人の姿を探してホームに立つ青年。
 女優の恋人役のその青年は、最初はカメラに背中を向けていた。ホームの真ん中辺りで、恋人が近くに居るはずだと焦る気持ちに握りこぶしを作っている。
 音のない声に呼ばれて青年が振り向く。フレームは青年の足元へと下り、段々とカメラが引いて女性の足元が入り込んで、次の瞬間、青年の背中越しに視点を変えた先で恋人へと微笑む女性と恋人を見つけた青年の視線が互いに合わさったのが画面から伝わった。
 駆け出しかけて一歩目に浮いた女性の足は、けれど駅のホームだと思い出したようにゆっくりと地面へ着地する。久し振りに会う恋人の為におめかししたヒールが足音を響かせた気がした。恋人の姿に足を縫いとめてしまった青年の代わりに傍へと近寄ってくる女性。
 あと一歩の距離。飛び付くように抱きつき、首へと腕を回して青年の肩口へ顔を寄せる女性に遅れて魔法が解けたように抱き締める腕。
 ひとつのドラマを見たようなCMは、『JR東海』の慣れたフレーズで括られて終わった。
「本人が違うって言うなら、違うんじゃないの?…すっごい雰囲気あったし」
 思い出して瞼を閉じる。雰囲気、というのは「ジュニアっぽい」という方なのか「役者っぽい」方なのか。
 でも、と続けようとした声を遮って扉が開いた。反射で向けた視線に驚きながらも表情は少しも変わっていない東北が居る。その後ろから現れた上越は渋々といった歩きで機嫌が良いとは言えない表情だ。
「…あれ、まだ始まって無かったんだ?」
「ちょうど時間だ。始めるぞ」
「なぁ東海道ー、やっぱアレってジュニアだよな?」
「ウルサイ黙れ貴様が見るな腐る」
 うわ何それヒドイ!ってか今の発言、肯定だよね?肯定したよね!?やっぱりジュニアなんじゃん、何で隠すんだろ別にからかったりとかしないのに。寧ろ…
「あんな風に俺の事、待ってて欲しいなぁとか?」
「そこはいっそ、いつでも俺が待ってるよじゃない?」
「山陽新幹線にはジュニア専用の年間シートがあるんでねぇべか?」
「お前は喋るな、山陽!」
「って俺かよ!」
 そこは山形じゃねぇの?と溜息に混ぜて口元に浮かんだ笑いを隠す上越、少しも気に留めていない秋田、資料をテーブルに並べていた山形を順番に眺めた。どっから俺の心の声が洩れていたのか訊きたいけど…うん、止めとく。
 どう言う意味ですか、って長野に訊かれた東北が「気にするな」と緩く首を振って…ってどう言う意味だよ?何か呆れてるだろ、しょうがないけど。
「ジュニアが望むならいつでもシート位は用意しちゃうけどさ、…とりあえず今はCMの話!何で秘密にしてんのかなぁって」
 テーブルに万歳して降参、と行動で示す。眉間に皺を寄せた東海道へ皆の視線が自然と集まれば、資料を片手にした儘で思いっきり苛立ちの込められた溜息が吐き出された。ギッと睨まれては背筋を正すしかない。
「…アレはウチの本線だ!他にはやらん!」
「……えーと?」
 弟さんをお嫁にください、って言っちゃったっけ、俺?まぁ気持ちは嘘じゃないけど、今その話してたっけ?
 クツクツと喉奥を震わせた上越が俺の隣に座った。



「反響良過ぎてスカウトきてるんだって」


 思いっきり不機嫌に表情を歪めた東海道が「誰にもやらーん!」とキレて、会議が延期したのは高速鉄道の沽券に関わるから秘密だ。



[ ] 2011.1216/ジュニの休日&私服、女性と一緒に居るジュニアを気にしないと見せかけてしっかり動揺してる兄さん、上官組でわいわい、山→ジュニ、「スカウトされちゃったジュニア」が書きたかっただけなのに長かった!前振り全切りしようか悩んで、勿体ない精神でうpしちゃったか余計にorz 因みに上越さんは高崎に会いに在来に顔を出してスカウト云々を聞いてました。ナチュラルに越→高してるのは通常営業。